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なぜ野鳥から、高病原性鳥インフルエンザウイルスの検出が相次いだのか

キーワード:高病原性鳥インフルエンザウイルス 野鳥、家禽、カモ、h1n1、h5n1、北大喜田教授
北大の喜田宏氏、「シベリア湖沼にウイルスが定着した可能性」

日経メディカルオンライン2011. 5. 2付け記事より

昨年10月、北海道大学が独自に行っている糞便調査により、北海道稚内市の大沼で採取された183検体のうち2検体から高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)が検出された。これを機に、日本各地で確認され、環境省によると2011年4月までに35件・50羽に達した。なぜ、野鳥から高病原性鳥インフルエンザウイルスの検出例が相次いだのか。北海道大学大学院獣医学研究所教授の喜田宏氏は「渡り鳥の営巣地であるシベリアの湖沼にウイルスが定着した可能性がある」と指摘。監視を怠らないようサーベイランスの強化などに取り組むべきと訴えた。

昨年10月の北大の検出後、12月には鳥取県米子市安倍で回収されたコハクチョウから、また鹿児島県出水市ではナベヅル5羽から検出された。2011年に入ると、環境省の発表では、1月の検出例は鹿児島県や福島県、北海道など5道県で9件・14羽となった。2月は18件・24羽、3月は5件・6羽と推移している。

喜田氏は、4月に開催された日本感染症学会の緊急セミナー「鳥インフルエンザ」で登壇。「高病原性鳥インフルエンザウイルス対策」のテーマで講演した。昨年末から日本で野鳥での高病原性鳥インフルエンザウイルスの検出例が相次ぎ、並行するかのようにニワトリの感染例も頻発した。また、高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染例が、エジプトを中心に増加している。日本感染症学会が緊急セミナーと銘打ったのには、それなりのわけがあった。

北海道大学の人獣共通感染症リサーチセンター長でもある喜田氏は、これまでの研究成果を振り返りながら、カモなどの渡り鳥がインフルエンザウイルスの供給源となっていること、ブタは新型インフルエンザウイルスの出現において重要や役割を果たしていること、さらに、インフルエンザウイルスが自然界に存続するメカニズムについても解説を加えた。

喜田氏らは、カモが夏期に営巣する湖沼の水にインフルエンザウイルスが存在することを確認している。カモは湖沼水中のウイルスに経口感染し、腸管で増殖したウイルスを糞便とともに排泄しており、この湖沼水中のウイルスは冬期に凍結保存の状態にあることも明らかにしてきた。

これまで、カモが運んでくる鳥インフルエンザウイルスは、カモにとっては非病原性であった。一方のアヒルやウズラ、七面鳥あるいはニワトリにとっては低病原性である。ただし、大量に飼育されるニワトリの中で流行が続いている間(6~9カ月)に、鳥にとって高病原性の鳥インフルエンザウイルスが出現することがある。

喜田氏が描くのは、このニワトリの間で発生した高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5あるいはH7)は、アヒルやウズラ、七面鳥などを介して渡り鳥に伝播していくという構図だ。今回、野鳥で高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1の検出が相次いだのは、この感染ルートの完成を意味する。渡り鳥に伝播したH5N1は、北の営巣地へ運ばれ、そこで増殖してほかの渡り鳥に感染し、渡り鳥がH5N1ウイルスを運んで日本にやってきたと説明できる。

喜田氏らは長年、鳥インフルエンザサーベイランスを実施してきた。1991~2009年には、モンゴル、ロシア、米国、日本(北海道)、中国、オーストラリアで野鳥を調査、2万2744検体から795ウイルス株(A型)を分離している。しかし、この期間中は、高病原性鳥インフルエンザウイルスの検出は1例もなく過ごしていた。

しかし、2010年は違った。10月25日現在で4515検体から55ウイルス株(A型)が分離され、うち2つのウイルス株が高病原性H5N1だった。これが昨年10月に、北海道稚内市の大沼で採取した検体から分離したウイルスだった。

北の営巣地での高病原性鳥インフルエンザウイルスの確認はこれからだが、「渡り鳥の営巣地であるシベリアの湖沼に高病原性インフルエンザウイルスが定着した可能性がある」とする喜田氏の指摘は、警告として受け止めるべきだろう。これまでは、ニワトリをはじめとする家禽の間で循環していたと考えられる高病原性鳥インフルエンザウイルス。これが野鳥の間にも広がり、自然界に存続するメカニズムに組み込まれたとなれば、ことは重大だ。野鳥から家禽あるいはブタなどの家畜へという感染ルートがより直接的になり、また地理的にも今季のような同時多発的な発生が頻発するリスクが高まると考えられるからだ。

喜田氏は対策の1つとして「自然界、家禽、ブタとヒトのグローバルサーベイランス」の必要性を訴えた。国としては、環境省、農林水産省、厚生労働省がそれぞれの領域内で監視を続けるだけでなく、内閣官房(新型インフルエンザ等対策室)を核にした継続的で総括的な監視体制を強化すべきではないだろうか。(図表は省略)
  

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